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 今回の並行輸入の問題は、純粋な国内法令の問題として位置づけられます。なぜかというと、
 パリ条約4条の2は特許独立の原則を定めたものですが、この原則によれば「特許権の相互依存を否定し、各国の特許権が、その発生、変動、消滅に関して相互に独立であること、すなわち、特許権自体の存立が、他国の特許権の無効、消滅、存続期間等により影響を受けない」ということが定められているからです。

 一定の事情のある場合に、特許権者が特許権を行使することが許されるかどうかという問題は、パリ条約の特許独立の原則とは全く関係がありません。

 関係がないからこそ、今回の並行輸入の問題を、純粋な国内法令の問題として捉えることができます。

 最高裁は、並行輸入の考え方について次の様に述べています。

 「我が国の特許権に関して特許権者が我が国の国内で権利を行使する場合において、権利行使の対象とされている製品が当該特許権者等により国外において譲渡されたという事情を、特許権者による特許権の行使の可否の判断に当たってどのように考慮するかは、専ら我が国の特許法の解釈の問題というべきである。」

 この判例により、国際的消尽が認められる様になったのか、といえばそれは違います。

 仮に、独国におけるある製品についての独国の特許権が消滅したから、対応する日本国におけるその製品に対する日本国の特許権は消滅する、という考え方を国際的消尽と呼ぶなら、その様な考え方は最高裁も認めていません。

 私は「国際的消尽」、「国際消尽」、「国際用尽」等の言葉は不用意に使うべきではないと思っています。

 この言葉を聞くと、「並行輸入の問題は我が国の国内法令の問題である。だから、独国におけるある製品についての独国の特許権が消滅したという事情を考慮して、対応する日本国におけるその製品に対する日本国の特許権は消滅すると考えるのは日本国の自由である。」という考え方を連想させるからです。

 並行輸入の問題について論文を書いてもらうと、実際に6割くらいの方が上記の流れの論文を書いてきます。

 頭では分かっているつもりになっているが、体では分かっていない、という一つの例です。
 
 違いますよ。違うんです。「条約に反しない限り」日本国の自由であって、条約に反して解釈することまで許されるはずはないのです。当たり前のことですよね?

 最高裁でも、はっきり、国内消尽の問題と海外における消尽との問題を同列に扱うことはできない、と明言しています。

 海外において日本国の特許権に係る製品を販売する際に、「日本には持ち込まないで下さいね。」という合意を、特許権者とその製品の購入者との間で結ぶ等、一定の条件を満たす基準を満たさない限り、並行輸入の問題に関して特許権者が差止請求等の権利行使を行うことは認められないと現在では考えられています。

 何故この様に考える様になったのかという理由は、つまるところ、我が国の産業政策が並行輸入を認める方向に向かっている、というところに帰着できると思います。

 この並行輸入の問題を考えると、深い海をのぞき込む様な怖さを感じます。条文を見ているだけでは結論が出ない問題だからです。我が国の産業を今後どうしたいのか、という意思が加わって初めて一つの解釈が出来上がります。

 並行輸入の問題を辿ると法律の解釈は時代の流れと共に変わっていくものだということが良く分かります。



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